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【第1章】教育にみる『タテな日本』と『ヨコな北欧』

スウェーデンに大学入試はあるのか?


 

日本の大学入試では一般的に、各大学の入試に基づく得点によって合否が決まるのだが、北欧ではどうだろうか?そもそも大学入試というものが存在するのか?その選出方法について、スウェーデンを例に見ていきたい。

これは、スウェーデンの高校生が大学進学に当たって必要なプロセスを説明したものであるとあらかじめ記しておく。海外から正規で大学に進学する際には違った要件での出願になる。

結論から言うと、多くの場合、スウェーデンの大学は入試ではなく高校の成績によって合否が決まる。大学やプログラムによってその比率は異なるのだが、例えば、ルンド大学(スウェーデン)の政治学学士課程ではその定員のうち66%が高校の成績を元に選出される。プログラムごとに、必要な成績が設けられていて、このプログラムでは英語の成績がB、数学がC、社会科学がAという成績評価が必要条件となっている(詳しいスウェーデンの成績評価については割愛するが、A-Fのスケールで成績が決まる)。

残りの34%に関しては別の選出方法がある。スウェーデンでは年に2回(春秋)、全国で共通テスト(Swedish Scholastic Aptitude Test (SweSAT)/Högskoleprovet)がある。この点数を元に34%の定員が決まることとなる。このテストでは、数学的思考力、量的分析、質的推論、スウェーデン語、英語技能などが問われる。尚、受験料は450SEK(1SEK=11円換算で、4950円)である。このテストのスコアは5年間有効であるので、早々から大学進学に必要なスコアを取る事ができる。

こうしたように、スウェーデンでは日本とは違った方式で大学の合否が決まる。これについては大きくヨコと言うわけではないが、少なくとも日本の現行の大学入試制度よりはヨコであると言えるだろう。

 


北欧の教育現場にみる3つの「相」


 

筆者は過去にスウェーデン留学をした事が、北欧に興味関心を寄せるきっかけになった。現在はノルウェーの大学院に正規で入学して、その中で現地の高校にも何度か訪問した事がある。そんな経験から考える北欧の教育現場には3つの「相」があるのではないかと思えてくる。すなわち、それらは「相互」「相乗」「相違」である。

 

筆者が訪問したノルウェーの高校生

 


相互:


日本にみる「トップダウンな授業風景」にて確認したのだが、「Education at a Glance 2019」によると、日本の1学級当たりの児童生徒数は国際平均(OECD平均)よりも多い。対して、北欧4カ国(ノルウェーのデータなし)では、OECDの平均値よりも少ない事がわかる。つまり、教員が幅広く児童生徒を見る事が物理的に可能であるということだ。

こうなると、教員から児童生徒への一方的な授業よりも、児童生徒の思考力を磨き、意見を引き出すような双方向的な授業スタイルが可能になる。もちろん、これは理論上の話であって、国によるカリキュラムの違いからも起こりうる。

こうした学習環境から、相互的なやりとりにより学習できるというのが北欧の教育現場にみるヨコの文化ではないだろうか。

現に、筆者が訪問したノルウェーの高校では、教員と生徒との議論の様子を目撃したことがある。筆者がかつて通っていた高校では、そうした授業はなかった。

また、同じく筆者が在学中のプログラムにて、教授と過ごす時間がよくある。1つ例をあげるなら、クラスメイト25名全員が教授の自宅に招かれ、夕食を振舞ってくれたことがある。ざっくばらんに話したり、音楽をかけながら踊ったりする光景もあった。

食事を終えてから、筆者は個人的にその教授のご主人と会話する機会があった。数年前にリタイアしたようだが、かつては政治学の教授であり、ノルウェーの政治や経済、はたまた日本の文化について話し合ったことも懐かしい。

 

教授の自宅に招待された時の一枚

 

相乗:


こうした相互的な授業スタイルが生み出すのが、教員と生徒間での相乗効果、生徒間での相乗効果であると考える。ディスカッションやディベート、さらにはグループワークが盛んに行われる学習環境においては、生徒間での会話、意見交換の機会が増える。

自分の視点からの見方に留まらず、また違った角度からの意見や考えに触れることで、思考力がブラッシュアップされる。

筆者が在籍しているプログラムの授業の一環で、高校生と「子どもの政治参加」について議論をした事がある。その中で、これまでとは違った見方や国籍を超えた様々な意見が行き交った。早々からこうした多様な価値観に触れることは、単に学習としての相乗効果を生み出すだけでなく、人としての受容が養われるはずだ。

また、在籍中のプログラムにおいてもそのコーディネーターとのマンツーマンでの会話の機会も設けられている。生活の様子であったり、プログラムに対する意見などを汲み取り、そのプログラム向上に努めようとする姿勢が感じられる。どこまでもフラットな関係がそこにあるのだ。

 

筆者が訪問したノルウェーの高校生

 


相違:


最後に、相違。読んで字の如く、これは他者との「違い」「ズレ」を意味する。「相乗」でも確認したように、多様な価値観に触れる機会が多いのが北欧全般に言える教育文化であると思う。

近年、北欧では移民難民の受け入れから初等教育から様々なバックグラウンドをもつ人が日常的であることも注目すべき点である。

自分とは違ったものの考え方をする人とどのようにして折り合いをつけていくのか、違いを受け入れた上でどのように共存していくのか、そんな社会的能力をまさに今培っている高校生を目前にすると、さすがに脱帽する。

先程の高校生とのディスカッションの機会において、ノルウェーでの政治について議論があった。ある女子高校生の言葉が印象的だった。

「友達と政治について話すことはあるわ。もちろん家族とも。お父さんと意見が食い違うこともあるけど、それはそれで違いとして受け止めて、どうして自分と違う考えになるのかを知るのが楽しいの。」

17歳の彼らはまだ参政権を持っていない。にも関わらず、自分なりに政治的意見を持ってるのには開いた口が塞がらない。近年、現行の参政権18歳から16歳への引き下げが議論に上がっているという。そんなノルウェーでの2017年の国政選挙の投票率は78.2%であった。

これについては、教育現場にて養われるものなのか、家庭での教育において養われるものなのかはわかりかねるが、教育機関、家庭環境いずれにせよ、そうした「違い」を受け入れる「教育」が多いはずだ。

この節であげたノルウェーの高校生については、「ノルウェーの高校生から学ぶ『圧倒的当事者意識』」を参照したい。

 

筆者が訪問したノルウェーの高校内部

 

以上見てきたように、北欧には「ヨコな教育風土」があるように思う。それは単に1教員当たりの児童生徒数の少なさだけでなく、その関係性に見て取れる。一方的な授業だけでなく、生徒からの発信を求めるシステムが彼らの自立心を育んでいるように感じる。教育機会についても等しく与えられていて、その障壁は限りなく無に近い。どの地域でも同じような質の高い教育を受けられるというユニバーサリズムが大きな特徴ではないだろうか。

 


おわりに

 

この章では「教育」という観点から、日本のタテな文化と北欧のヨコな文化について見てきた。冒頭で取り上げたQS世界大学ランキングや、PISAにおける成績だけを見るといずれも世界レベルに劣っていない。

日本においては1872年(明治5年)の学制発布以降、今もなおその原形を留め続けている。一方で、北欧諸国では近年の急速なIT化を受けて、早期に教育現場でも精密機器を取り入れているようだ。

ノルウェーの高校では1人1台ラップトップを支給されるという話も聞く。それに筆者が訪問した高校には教室いっぱいにMacintoshが整備されていて、廊下にも沢山転がっていた。放課後、パソコンに向かって作業する男子高校生に話を聞いてみたところ、マーケティングの課題をやっていたという。IT分野で起業したいとの声も聞いた。

教育は、その国の国民性や環境などの外的要因と深く関わっているものであるから、日本と北欧の教育システムに優劣をつけ、模倣するような真似は必ずしも正しいとは思えない。ただ、常に時代に合わせて変わり続ける北欧のヨコな教育風土に対して、これから日本の教育風土はどのようにしてその形を変えていくのか?これからも目が離せない。

 

筆者が訪問したノルウェーの高校にあったMacintosh

 


コラム〜ノルウェー男児の大学選び〜
筆者が受けたとある授業で出会ったノルウェー人大学生の話。たまたま席が近くて、ディスカッションを一緒にした。その授業を終えて、彼と話している中で驚いたことがある。彼は政治学を学んでいるようなのだが、出身地について聞いてみた。オスロ近郊だと言っていて、それではなぜスタヴァンゲル(筆者が在住のノルウェー南西部の街)にまでやって来たのかを加えて聞いてみると、彼は、「彼女がこっちの大学で学びたい分野があったから来たんだよ。政治学はどこの大学でも一緒だからね。」と言う。確かに政治学は日本においてもメジャーな学問であるが、どこで学んでも同じと言うことには驚いた。これも均質な教育と言えるのか、、

 

次の章を読む→【第2章】コミュニケーションにみる『タテ』と『ヨコ』


 

 


【参考資料】

QS Top Universities「QS World University Rankings 2020」https://www.topuniversities.com/university-rankings/world-university-rankings/2020

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/#PISA2018

河合塾「2020年度入試難易予想ランキング表」https://www.keinet.ne.jp/university/ranking/index.html

モバイルリサーチ「大学選びに関する調査2014」
http://www.mobile-research.jp/investigation/research_date_140724.html#pos4

PRナビ「子どもの進学・進路に関するアンケート調査(2017)(明光義塾調べ)」
http://prnavi.jp/pr/20171005/58899/

文部科学省「学級編制・教職員定数改善等に関する基礎資料」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hensei/005/1295041.htm

OECD「Education at a Glance 2019」
https://www.oecd.org/education/education-at-a-glance/

Studera.nu「What is the Högskoleprovet?」
https://www.studera.nu/startpage/road-to-studies/hogskoleprovet—swedish-scholastic-aptitude-test/what-is-the-hogskoleprovet/

Swedish Council for Higher Education「Högskoleprovet」
https://www.uhr.se/studier-och-antagning/Hogskoleprovet/

Lunds Universitet「Politices kandidatprogrammet」
https://www.lu.se/lubas/i-uoh-lu-SGPOL

gymnasium.se「Higher Education Requirements and Qualification Points」
https://www.gymnasium.se/om-gymnasiet/hogskolebehorighet-meritpoang-engelska-17353

Nordic Co-peration「The grading scale in the Swedish educational system」
https://www.norden.org/en/info-norden/grading-scale-swedish-educational-system

Statistics Norway「This is Norway 2019」
https://www.ssb.no/en/befolkning/artikler-og-publikasjoner/this-is-norway-2019

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