こんにちは、NorrライターのRenです。
今回はノルウェー第4の街スタヴァンゲルのレストランを紹介してみようと思います。南西部に位置するスタヴァンゲルは、フィヨルドを中心とした観光業や石油産業が盛んで、なかなかインターナショナルな街です。人口15万人ほどの小さな街ですが、実は美食の街のようでミシュランに登録されたことのあるお店が3店舗あります。
今回その1つであるお店に行ってきました。
店名は「Sabi Omakase」
勘の良い方はお気づきかもしれませんが、「江戸前鮨」の精神を受け継いだ高級鮨屋です。
2017〜2020年にかけて毎年ミシュラン1つ星を獲得するほどの実績をもつ「Sabi Omakase」その現場の様子を隅々までお伝えします。
5ヶ月待ちの完全予約制
ミシュランに認められるくらいなので、完全予約制。去年の年末に予約して、ようやく昨日(3/6)その日を迎えました。
このブログを書いている今日現在(3/7)、ホームページの予約画面を確認したところ、最速の予約で8月6日でした(奇遇にも僕の誕生日!)。それほどの人気店であるようですね。
当日、時間になってお店に着くと僕の到着を首を長くして待っていたかのように温かく迎え入れてくれるワインソムリエのお兄さん。
早速ウェルカムドリンクをいただきました。フルーティーなビールだったのですが、カラカラに乾いていた僕の喉をスッと潤してくれました。店内の薄暗い雰囲気あってか、格段に美味しく感じられます。
「鮨の真髄」から始まるプロの伝え方
親方がカウンターにやってきて軽く挨拶。そのまますぐに握りたてのお鮨を食べられるかと思いきや、、そうではなかったんです。
そのまま鮨の歴史について話してくれました。時は遡って江戸時代中期。この時期に「華屋与兵衛」という人が考案したとされているようです。もともと東南アジア付近でお鮨に近いものがあって、それを日本人の保存技術を以ってして自分たちの口に合うように改良していったそう。そんな鮨文化は江戸時代の鎖国に守られながら独自性を保っていたんだとか。
それから西洋で普及しているお鮨と江戸前のお鮨の違いまで。そして、日本ではごく一般的ですが、素手で親方が握った鮨をお客さんも手で食べる。親方はそれを「信頼」だと言いました。いかにも日本人的な発想で、そういった込み入ったところまで丁寧に教えてくれます。
思わず前かがみになって聞きたくなるような鮨の話を20分ほど話してくれました。日本人である僕も知らないことが多くて、勉強になりました。
特に、舌を通して食文化を伝えるのはもちろんのこと、ストーリーや歴史に紐付けて「鮨の真髄」までしっかりと伝えようとする姿勢に思わず鳥肌が経ちました。
そんな訳で鮨の成り立ちを聞いてから、実食。どうやらこんな雰囲気あってか聞けば聞くほど人差し指がピクピクっと動いたのを覚えています。
最初は少し堅い雰囲気がお店の中に漂っていて序盤の品は写真に収めませんでした。
「Omakase」という店名通り、親方の準備したネタをいただくことになっていて、それは握りだけではありませんでした。たぶん毎回変わるのかな?
今回は、最初に貝の出汁を凝縮させたスープから始まりました。素材の90%をノルウェーで調達していて、スタヴァンゲル近郊で採れる魚介もたくさん。それに合わせてワインソムリエが一品ずつペアリングをしてくれます。ちなみに、お米は新潟県産のものを使用していると言っていました。
こんなとろとろの脂がのったサーモンを食べたことがない!
「ノルウェーなくしてサーモンの鮨は生まれなかった」とはよく言ったもので、さすが本場の上質なサーモン!と頷ける味で、思わず舌鼓を打ちました。
ワインソムリエの方の説明の様子です。一杯一杯丁寧に説明してくれました。ネタが魚介の時は白ワインやシャンパンを、お肉の時は赤ワインを用意してくれます。
ノルウェーに来てからめっきりワインを飲まなくなったので、余計に美味しく感じられました。写真のワインは少しとろ〜ッとした甘い赤ワインでした。
北欧ならではの鮨ネタです。古くから北方先住民族(サーミ人)はトナカイを食べて暮らしていました。ラップランドなんかに行くと、トナカイのお肉を使ったハンバーガーやステーキを食べることができますね。
日本人からするとトナカイを食べるのは少し違和感があるかもしれませんが、もしかしたら鯨を食べるような感覚なのかもしれませんね(ちなみにノルウェーは日本と同様世界でも数少ない捕鯨国です)。
肉厚なトナカイのお肉は少し酢の効いたシャリとよく合う!
そうそう、海外の寿司といえば「カリフォルニアロール」を頭に浮かべるかもしれませんが、あの見た目には理由があったようです。
日本の節分なんかで食べる恵方巻きなどの巻き寿司は外に「海苔」が巻かれていますよね。ただ、この海苔がアメリカでは評判がよくなかったそうで、いっそのこと中に隠しちゃえ!ということで、カリフォルニアロールは海苔を内側にして、それを包み込むように外側に酢飯で巻くようになったそうです。知らなかった!
今回提供された「軍艦」には海苔は使われていませんでした。欧米人への配慮かな?代わりに、薄くスライスした大根や昆布が巻いていました。
それからそれから、これまた親方のこぼれ話なのですが、「軍艦」は英語でいうと「battel ship」と言いますね。でも親方はここでは違うと言いました。ここはノルウェーだから「battel ship」ではなくて、「viking ship」だぞと。そんなユーモアを盛り込みながらあっという間に3時間半が経ちました。
一つ一つの素材本来の良さを活かしているのがわかりました。最初は脂の甘みが舌を伝って、それからほんのり酸っぱい酢飯がゆっくりと、最後にはキリッとした山葵の香りを口いっぱいで感じながらスッと鼻から出ていくのがわかります。
そんな味のグラデーションを楽しみながら思わず笑みが溢れてしまっていました。親方と目が合っては微笑み、隣のお兄さんと目が合っては「Good!! Good!!」と親指を立てる。
見て楽しみ、聞いて楽しみ、舌で楽しむこともできる。全身を使いながら食べたのはこれが初めてかもしれません。
〆のデザート。マンゴーと柚子風味のシャーベットでした。間に入っている橙色の粒々はイクラかと思いきや、もちもちしてました。何だったんだろう。
本物の職人が作る、本物の味と空間
まだ人生経験の浅い僕はこうした格式の高いお店に来ることはほとんどありません。それにノルウェーの外食は日本よりもかなり割高なのでなかなかノルウェーの味を感じることができません。
今回は、せっかくということで留学の記念がてらに行ってみたのですが、心から良い経験だったと感じています。日本から遠く離れた北の小国でこうして日本独自の食文化が正しく伝えられていると思うとなんだか胸が熱くなります。
お開きになってから、僕に親方が話しかけてくれました。聞けば、彼はフィリピンにルーツを持つ人でした。正直なところ、これだけの質の高いサービスをしているので、日本人であることを疑うことなく無条件に受け入れていました。
日本で長い修行期間を経て、2015年に晴れてOmakaseを創業。そして2017年には初めてミシュラン1つ星を獲得しました。
親方が醸し出すちょっぴり厳かな空気感、薄暗い店内、精巧な陶器、味によって形状の異なるワイングラス、そんな一つ一つに思考を凝らしているのがよく伝わってきました。
「本物ってこういうことか。」
僕の右隣に座っていた男性は、日本のことが大好きでいつか行ってみたいと言っていて、左隣に座っていた女性はノルウェーで教員をしているそう。こうした空間だからこそ経験できる味があり、出逢いがあるんだとしみじみと感じました。
特別グルメということでもありませんが、時々こうした「本物」を経験しておくことは自分への大きな投資であり、次の階段へと引っ張ってくれるような気がしました。
身も心もすっかり穏やかになって外に出ると、ノルウェーの3月の少し冷たい夜風を肌で感じます。顔をあげるとそこには澄み切った群青色の空に無数の星が見えました。
僕にとって、こんな素敵な経験をさせてくれたOmakaseは1つ星どころではありませんでした。
きっとまた成長して親方のユーモアのある喋りとともに本物の鮨を楽しむ日が来るといいな。
親方、Arigatou!! Tusen takk!!
●Sabi Omakase店舗情報:
>HP:https://www.omakase.no/index.php
>営業時間:木〜土曜日(3.5時間のOmakaseコース)
>SNS情報:
- Instagram:https://www.instagram.com/sabiomakase/
- Facebook:https://www.facebook.com/sabiomakase/
>お問い合わせ:omakase@sabi.no
>住所:Pedersgata 38, Stavanger
文筆家、写真家、イラストレーター。学部時代のスウェーデン留学が大きな転機となり、北欧のウェルビーイングを身体で学ぶべく、ノルウェーとデンマークの大学院に進学。専門は社会保障、社会福祉、移民学。2021年6月両国にてダブルディグリーで修士号取得後、帰国。現在は、アニメーション業界に飛び込み、ストーリーテリングの観点から社会へ働きかけるべく活動を広げている。フリーランスとしても活動している。又、北欧情報メディアNorrから派生した「北欧留学大使」を主宰し、北欧留学支援もしている。
■これまでの活動歴:「令和未来会議2020”開国論”(NHK)パネリスト出演」、「デモクラシーフェスティバル2020(北欧5カ国大使館後援)イベント主催」、その他講演多数