こんにちは、NorrライターのRenです。
「移民」というワードに初めて触れたのは、大学1年生の時の海外ボランティア活動でした。マレーシアの島嶼部で生活する(不法)移民の子ども達への教育活動として複数回現地に足を運んだことがあります。
その後、スウェーデンへ留学し、マレーシアとは違った視点で移民や難民と関わりました。特に中東難民の方々と一緒にバスケットボールをしたりスウェーデン語の授業を受けたりしたのも懐かしいです。
そんな経験から国ごとの政策の違い、国民の態度の違いに興味をもち、学部時代の研究論文では「日本、スウェーデン、マレーシアの在住外国人とその国民感情の違い」について書きました。
そして、今はひょんなことからある種の「移民」という形でノルウェーに住んでいます。スウェーデン程までは行かないとも、ノルウェーでも移民や難民の方はたくさんいます。
今回は、そんな移民にまつわる内容です。スウェーデンの移民政策について書かれた論文を元に、移民の経済効果と今後のスウェーデンの移民政策について考えてみます。
今日取り上げる論文は、2011年のスウェーデンのリンネ大学(Linnaeus University)からの論文です。タイトルは “Will Future Immigration to Sweden Make it Easier to Finance the Welfare System?”、訳すと「今後のスウェーデンへの移民は福祉システムの財政を促進するのか」といったところでしょうか。
2011年に書かれた少し古い論文ですが、数年前のシリア難民以前に書かれた論文ということは念頭に置いておきたいところです。
スウェーデンの移民史について詳しく知りたい方は先にこちらを読まれることをオススメします。
→「いつからスウェーデンは移民大国になったの?」
スウェーデンはこれからも移民を受け入れ続けるべきなのか?
この論文は2050年までの移民の出入国を含めた人口予測や、スウェーデンの経済予測を元に書かれています。
スウェーデンではGDPのおおよそ半分が公的支出に充てられています。その中でも、福祉へ充てられる割合はGDPの30%程です。言うまでもなく、スウェーデンで充実した社会福祉を享受できるのは、国民が高い税金を支払っていることに他なりません。
この割合は高齢化のため今後とも増加すると見込まれていて、2011年当時の予測では2030年までに公的支出の割合は60%にまでなるとされています。
さて、そんなスウェーデンの財政事情がある中で、これからの移民がスウェーデンの公的セクターにどんな影響をもたらすかを考えていきます。
これまで移民と経済に関する論文は多数書かれていて、スウェーデンだけでもたくさんあります。特にこれまでのスウェーデンの論文に限って言えば、移民によって経済がプラスに働いたと言うものもあります。
ただ、ここで見落としてはいけないのはスウェーデンの移民史であり、そうした論文が書かれた時期です。
第二次世界大戦後の復興で当時中立を保っていたスウェーデンは足早に多くの労働移民を受け入れることができ、これによる経済的恩恵は1980年ごろまで続きます。
当時は労働移民が原則であったので、ネイティブ・移民どちらもほぼ完全雇用を達成していました。つまり、全員が税金をきちんと納めた上で社会保障を享受できました(もっと言えば、当時は現在のようにネイティブと移民を同等に扱う政策がなされていなかった)。
「移民によって経済がプラスに働く」とされていたのはこの時期で、これ以降は必ずしも「イエス」と言えなさそうです。
1980年代に入ると、スウェーデン経済は停滞期に入り、移民受け入れをストップします。これがスウェーデン移民史の過渡期となっていて、これ以降は難民受け入れにも積極的になりました。
受け入れ母数は減ったものの、積極的な移民政策の甲斐あってスウェーデンの人口は戦後一貫して増加しています。
移民はどれだけ経済に貢献しているのか?
移民が流入してきたことで経済にどんな影響があるのか。いくつか見ていきます。
まずは、経済への貢献度。
1980年後半では移民による経済効果はゼロに近かったと言います。1990年代初期にはGDPの0.9%程を占めたようで、これは1990年代後半には1.5~2%にまで上昇しました。しかし、この割合は今もなお横ばいのようです。ここで忘れてはいけないのが、移民の数は増えていると言うことです。言い換えると、移民の数は増えているのに、経済効果にはさほど影響がない。
続いて、ネイティブの就労機会について。
移民が入ってくることでその国のローカルの人たちの職が奪われると言う懸念がありますが、その影響は実は極めて小さい。
1%移民が増えると、その国のネイティブの職は0.024%失われる、といった具合。
そして、賃金。
移民の増加でネイティブの賃金が減ることも懸念されていますが、これも小さい変化に止まっています。1%の移民の増加で、ネイティブの賃金は0.1%だけ減少するようです。
文筆家、写真家、イラストレーター。学部時代のスウェーデン留学が大きな転機となり、北欧のウェルビーイングを身体で学ぶべく、ノルウェーとデンマークの大学院に進学。専門は社会保障、社会福祉、移民学。2021年6月両国にてダブルディグリーで修士号取得後、帰国。現在は、アニメーション業界に飛び込み、ストーリーテリングの観点から社会へ働きかけるべく活動を広げている。フリーランスとしても活動している。又、北欧情報メディアNorrから派生した「北欧留学大使」を主宰し、北欧留学支援もしている。
■これまでの活動歴:「令和未来会議2020”開国論”(NHK)パネリスト出演」、「デモクラシーフェスティバル2020(北欧5カ国大使館後援)イベント主催」、その他講演多数