2014年に日本で上映されたディズニー映画「アナと雪の女王(以下、アナ雪)」。主題歌「Let it go」で人気を博し、日本でも社会現象になりました。続編の「アナと雪の女王2」は2019年に上映が始まり再びアナ雪ブームが再熱したことと思います。
そんな世界的アニメーション映画であるアナ雪のモデル地が北の小国ノルウェーであることは比較的知られているかもしれません。アナ雪2ではサーミ語(北欧の北部に住む少数民族サーミ人の言語)版でも翻訳されることが日本でもニュースにもなりました。
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アナ雪の舞台であるアレンデール王国の城はオスロにある古城アーケシュフース城がモデルになっていると言われていたり、オーロラそのものが描写されていたり。アナ雪をみて見つけた“北欧っぽさ”について以前noteに書き留めてみました。
→note【アナ雪を見てみたら、北欧をたくさん発見した!】
さて、話は本題のスターヴ教会について。これはノルウェーの伝統的な教会なのですが、アナ雪のモデルとなっていると言われています。以前ベルゲンに小旅行にいったのですが、その際にベルゲン近郊にあるスターヴ教会に行ってきました。
今回は【アナ雪のモデル:「スターヴ教会」の3つの不思議】と題して、実際に行き、現場のガイドの方に色々とお話を伺ってわかった「スターヴ教会の不思議」について書きます。
本記事の写真には、ベルゲン近郊のスターヴ教会の他に、オスロにあるノルウェー民俗博物館のレプリカのスターヴ教会の写真も転載しています。
⓪スターヴ教会とは何か?
まずは、スターヴ教会(Stave Church)とは何なのかについて見ていきます。スターヴ教会とは、ノルウェーを中心とした北ヨーロッパに建てられた木造教会を指します。
スターヴとは、ノルウェー語のStavに由来していて、これはStickやPoleを意味します。何れにせよ「棒」という意味合いがそのまま名前になっています。スターヴ教会の内部を見てみると、それを支える支柱になる大黒柱が見られます。
スターヴ教会はその歴史と建築で世界的にも有名です。
歴史でいうと、かつては1000箇所以上が国内に散らばっていたとされています。今も現存するものは28箇所に減ったものの、そこに中世以後のノルウェーの歴史が詰まっていると言えます。社会の移り変わりの中(宗教改革、石造りへの建て替えや貧困など)で、その数はみるみる減っていきました。
ほとんどのスターヴ教会は1150〜1350年の間に建設されたようなのですが、黒死病や宗教改革などの社会の流れととにも数を減らし、1650年には270箇所にまで減りました。続けて、以後100年間のうちに136箇所が姿を消しました。そして、今もなお現存するのは28箇所とかなり稀少なものとなっていきました。
その歴史的価値が評価され、現存する最古のウルネスのスターヴ教会(1130年頃建立)はユネスコの世界遺産に登録されました。
建築については、建築様式の名前にもなるほどです。自然を多く有するノルウェーならではの建築様式として評価されています。金属は使わずに、レゴのように木を木を繋ぎ合わせて組み立てるのがスターヴという建築様式であるようです。
建築と同様に、しばしばその装飾にもスポットライトが当てられます。それは、キリスト教ならではの装飾であるだけでなく、ヴァイキング時代の象徴的な装飾からも評価されています。
①なぜ木製なのか?
教会といえば石造りのものをよく見かけますが、スターヴ教会は木造建築です。金属はほとんど使っておらず、レゴのように木々をはめ込んで組み立てていったようです。日本でも木造の建築物が現存しているので比較してみると面白いかもしれません。
なぜスターヴ教会が木造建築なのか?という疑問に対しては、その歴史とノルウェーの自然を考えるとわかります。スターヴ教会は世界遺産に登録されるまでに価値のあることが証明されたのですが、ここには歴史的な時間の長さが1つ考えられます。
12〜13世紀の中世期には1000箇所以上がノルウェー国内にありました。当時のノルウェーは貧困な地域で、一方木材などの資源が豊富にありました。フィヨルドに代表されるほどに自然が観光資源となっている国なので納得ですね。
こういった経緯で、潤沢にある木材から教会を作ったということになります。
②なぜ黒いのか?
教会と聞いてどんな画が思い浮かびますか?僕の中では、グレーや白っぽいイメージがあったのですが、スターヴ教会は黒い外観をしています。なぜだろうと思って聞いてみると、これには明確な理由があることがわかりました。
スターヴ教会は表面をTar(ター)というオイルで塗装しています。このオイル自体が黒いため、スターヴ教会も黒くなるというわけですね。
Tarはよく木材用途で使われるオイルで、日光を遮断する役割や侵食から防ぐ効果があるようです。確かにノルウェーは雨が多く、夏場は日差しが強いです。気候に合わせて黒くなっているということですね。
③なぜ内陸に多く存在するのか?
最後の不思議は「なぜ内陸にばかりあるのか」です。VisitNorway(上地図)のサイトを参照してみると、どういうわけか現存するスターヴ教会は都市部から離れた内陸に分布していることがわかります。
世界遺産に登録されている最古の「ウルネスのスターヴ教会(Urnes Stave Church)」はベルゲンからそれなりに近い(ソグネフィヨルド)までも、決してアクセスが良いとは言えません。
中世は宗教の時代とでも言い換えられるくらいに教会に行くことが習慣化していました。となると、人が住む町の近くに多くあるはずだと考えられると思うのですが、なぜ都市から離れた内陸に多く分布しているのか。
ファントフト・スターヴ教会(Fantoft Stave Church)のスタッフに聞いてみましたが、明確な理由はわからないそうです。考えられる理由は2つとのこと。
1つは、「お金」のため。ノルウェーに限らず北欧の国は資源に乏しく貧しい地域でした。当初あった1000箇所以上のスターヴ教会を崩して、その木材を以ってして生活を繋いでいた可能性があるというのが1つ考えられることです。
つまり、かつてはベルゲンやオスロといった町にもあったのかもしれませんが、生活のために壊していって残ったのが現存する28のスターヴ教会であるという考えですね。
※ちなみにファントフト・スターヴ教会は焼失した別のスターヴ教会を再建したもので、現存する28の中には数えられていないようです。
それから自然資源の存在。当時の人々の生活にとって教会は大きな存在でした。やはり教会のあるところに集住していたと考えることができるので、人が生活できるだけの環境・資源が必要になります。それは水資源であったり、教会を建てるだけの木材でもあります。
こうして場所が限定されて、水や木材が豊富にある内陸に集中したのではという考えです。事実、現存するものの多くはフィヨルドの近くに位置していることが多いです。
補足ですが話していく中で、ノルウェーの地形(標高や土地のなだらかさ)についても言及していました。沿岸部は坂が多くとても教会を建てられなかったのではないか、ということです。
確かに、首都オスロやスタヴァンゲル(ノルウェー南西部に位置する第4の町)に在住経験のある僕(加えて、ベルゲンへは旅行経験あり)は、その土地のアップダウンの多さは経験しました。しかしながら、よくよく調べてみると少し矛盾が生じます。
ノルウェーの標高を色分けしたマップを見たところ、スターヴ教会が分布しているところは必ずしもなだらかな地形ではなくむしろ標高が高いところが多そうです。
下は、VisitNorwayサイトの現存するスターヴ教会の分布(赤いドット)とノルウェーの標高(赤いほど標高が高い)を表したサイトを合成したマップです(若干のズレがあるのはお許しを)。これをみる限りだと、地形はあまり関係なさそうにも思えてきます。
最後に。
日本からノルウェーへ旅行される方への観光地にはなりにくいスターヴ教会。この記事を通して、少しでも興味を持っていただけると嬉しく思います。
最後に、オスロやベルゲンなどの観光地から行きやすいスターヴ教会のアクセス情報を添付します。
※いずれにせよ建立当時から現存するものではなく、移築されたものであることに注意。
ノルウェー民俗博物館(オスロエリア)
ノルウェー民俗博物館施設内にレプリカが展示されています。これはGol Stave Churchが移築されたものです。
以下、アクセス情報です。こちらは、記事寄稿時の情報です。必ずHPにて詳細のご確認をお願いします。
●営業時間)
毎日10〜17時
●料金)*NOK1=12円で計算
大人 | NOK160 | 1920円 |
子供(6〜17歳)*6歳以下は無料 | NOK40 | 480円 |
家族チケット(大人2人+子供) | NOK320 | 3840円 |
18〜25歳と学生 | NOK100 | 1200円 |
シニア層(67歳以上) | NOK120 | 1440円 |
15人以上の団体 | NOK120 | 1440円 |
●ホームページ)
https://norskfolkemuseum.no/en
●アクセス)
バス30番(Bygdøy行き)に乗って、Folkemuseetで降車
オスロ中央駅から30分程で着きます。
ファントフト・スターヴ教会(ベルゲンエリア)
Fantoft Stave Churchはベルゲン中心部からバスで小一時間の距離に位置する比較的アクセスしやすいスターヴ教会です。
●営業時間)
月曜日〜土曜日:11〜16時
*20205月15日〜9月13日までのスケジュール
●料金)*NOK1=12円で計算
大人 | NOK65 | 780円 |
子供 | NOK30 | 360円 |
学生 | NOK50 | 600円 |
*ベルゲンカード提示で無料
●ホームページ)
https://en.visitbergen.com/things-to-do/fantoft-stave-church-p824893
●アクセス)
ベルゲン中心部のSmåstrandgatenよりバス2番に乗車。Birkelundstoppenで降車して、ファントフト・スターヴ教会まで徒歩15分。
文筆家、写真家、イラストレーター。学部時代のスウェーデン留学が大きな転機となり、北欧のウェルビーイングを身体で学ぶべく、ノルウェーとデンマークの大学院に進学。専門は社会保障、社会福祉、移民学。2021年6月両国にてダブルディグリーで修士号取得後、帰国。現在は、アニメーション業界に飛び込み、ストーリーテリングの観点から社会へ働きかけるべく活動を広げている。フリーランスとしても活動している。又、北欧情報メディアNorrから派生した「北欧留学大使」を主宰し、北欧留学支援もしている。
■これまでの活動歴:「令和未来会議2020”開国論”(NHK)パネリスト出演」、「デモクラシーフェスティバル2020(北欧5カ国大使館後援)イベント主催」、その他講演多数