一年に一度、渋谷のユーロスペースで開催されるトーキョーノーザンライツフェスティバル。国内の映画館では普段なかなかお目にかかれない北欧の映画作品を観れるということで、楽しみにしている人も少なくないのではないでしょうか。そんなトーキョーノーザンライツフェスティバルも今年で10回目を迎えるということで、第一回目から運営メンバーの一人として携わっていらっしゃる雨宮さんとトーキョーノーザンライツフェスティバルについて、また北欧映画の魅力についてざっくばらんにお話させて頂きました。
*以下トーキョーノーザンライツフェスティバルをTNLFと記載
「自分たちが学んだことを実践できるかどうかの実験として始まった」
今年で10回目を迎えるTNLFですが、最初はどういう風に始まったんですか?
きっかけは配給会社のアップリンクが行なっている配給を学ぶワークショップです。たまたまそこに参加していた何人かで「学んでばっかりいても仕方ないから、何か自分たちでもやってみたいね」って話になって映画祭をやってみようかってなったんです。
そうなんですね。
ちなみに配給のワークショップに参加されていたのは、雨宮さんご自身が北欧の映画祭をもともとやりたいと考えていらっしゃったからですか?
いえ、映画が昔から好きだったので、映画のことや配給のことについて知りたくて参加していたんです。
でも映画祭の開催に向けて動き出したもののテーマもコンセプトも何も決まっていなかったんです。当時、オランダで日本映画祭をやっている日本人の方とメンバーの一人が知り合いで、では逆に日本でオランダ映画祭をやってみようかという話にもなりかけたのですが、オランダ映画だけで映画祭として成り立たせるのは中々難しそうで、、。
その後、映画祭のテーマをどうしようかと考えていくなかで、そういえば北欧ブームと言われているけれど北欧映画祭はないね、という話になりました。
北欧への関心が高まっている今なら、映画祭としても成り立つのではないかと。北欧映画自体はちょこちょこ日本に入ってきていたんですが、その多くは北欧映画とは知られずにいわゆる「洋画」として消費されている感じでしたし、北欧の映画を集めて上映したらその魅力を見つけてもらえるんじゃないかなと思って北欧映画祭に決まりました。
そういう経緯で北欧映画祭ができたんですね。
北欧のものって質が良いものが多いので、日本でも普段身の回りにあるけど北欧のものって気づかれていないケースって多いですよね。当時の映画もそうだったんですね。
「みんなが寄り集まって一年一年頑張って、気付いたら10回目まで来ていた感じですね。」
TNLFの開催に向けて毎年どういった流れで準備を進めていくんですか?
TNLFが2月に終わって、3月、4月あたりから次の年に上映したい映画を意識して探し始め、是非来年やりたいって思ったものがあれば、本国に借りられるかどうかなどの連絡や交渉をしていきます。毎年、候補作を100本くらい出して、そこから10数本に絞っていっていますね。
100本も!かなり大変そうですね!
それはメンバーの皆さんで手分けして進められるんですよね?
そうですね、各々が違ったバックグラウンドをもっているので、それぞれ得意なことを担当して準備をしています。
TNLFの活動はみんなボランティアでやっているので、一年中準備に携わるメンバーもいれば、開催期間が近くなったら手伝ってくれるメンバーもいますけど、みんな平等な立場です。事務所とかもないですし、各々の関わり方で毎年準備をしています。
なるほど。皆さん以前から北欧についてお詳しかったんですか?
実は当時のメンバー全員、北欧についてはほとんど何も知らない状態だったので、まずは北欧について知らなきゃということで、図書館で勉強会を開いたりして、それぞれ理解を深めていきましたね。
これまでも作品を上映するにあたって、専門家の方や北欧についてよくご存じの方に意見を聞いたりすることは多くて、映画での描かれ方は実際にリアルなものなのか北欧出身の方に聞いたり教えて頂くこともあります。
なかでも字幕を付ける作業は絶対に間違ってはいけない部分なので、歴史が絡んでくる映画だったりすると、専門家の方に監修して頂いたりするようにしていますね。
「なるべく皆がまだ観たことがないものを選ぶようにはしていますね。」
「安易なハッピーエンドにしない。そこが米映画や邦映画と違う北欧映画の魅力じゃないですかね。」
TNLFで上映する作品を決めていくうえで、何か基準みたいなものはあるんでしょうか?
日本でまだ公開されていなかったり、なるべく皆が観たことがないものを選ぶようにはしていますね。
でもここ数年で、北欧映画が日本で公開される機会が多くなってきて、これいい!と思っても配給会社にもう買われてしまっているケースとかはよくあって、TNLFの役目はもう終えたのかななんてたまに感じる時もありますね。
そうなんですね。北欧映画の良さが徐々に気づかれ始めてきたんでしょうかね。
そうですね。
でも全部が買われてしまっているわけではなくて、なかでもアート寄りの作品だったり題材の重い作品は大ヒットが見込めないという理由から取りこぼしがあるので、そういう作品を敢えて選んだりもしていますね。
今年は特に題材がネオナチだったりカルト宗教だったり不倫だったり、ダークな映画が多めですね。笑 でもどれもレベルが高いのですごく良いですよ。
そうなんですね。
他では中々観ることのできない作品を観られるというのがTNLFの良さですよね!
今回は敢えて暗めの作品を中心に選ばれたということでしょうか?
いえ、暗めの作品を選ぼうと思っているわけではないんですけど、北欧映画って結構暗いものが多いんですよね。
確かに、北欧映画ってリアリズムが効いている作品が多いですよね。
そう、そこが北欧映画の素晴らしいところだと思っていて、日本で北欧っていうとインテリアがおしゃれで可愛いイメージだったり、幸せな国っていうイメージを思い浮かべる方が多いと思うんですけど、実際は北の方では太陽が昇らない長い冬があったり、結構厳しい場所なんですよね。幸福度が高いとか言われているけど、そんな簡単なもんじゃないよっていうのをリアルに描いてちゃんと映画にしているのがすごく良いんですよね。
安易なハッピーエンドで終わらせないっていうのが、ハリウッドや日本の映画と違う北欧映画の魅力かなと個人的には思いますね。
なので、観に来てくれるお客さんのなかには「もっと明るい映画だと思っていたんですけど、予想と違って暗くてびっくりしました」とか「もっと楽しい内容だと思ったけど、辛かった」って感想を言っていたお客さんもいましたけど、最終的には「北欧の知らなかった面を知れて良かった」って皆さん言って下さるので嬉しいですね。
ちなみに雨宮さんおススメの北欧映画はありますか?
「シンプル・シモン」と「アダムズ・アップル」は是非見て頂きたい作品です。
シンプル・シモン
日本だとネガティブに捉えられてしまうことが多いアスペルガー症候群をコメディタッチで描いている面白い作品です。コメディタッチで描かれているので、最初はアスペルガー症候群の方やそのご家族が観てどう思うのか心配だったので、実際に見て頂いて感想を聞いたのですが、監督がアスペルガー症候群の方々にしっかり取材をしているということもあって、映画でのアスペルガー症候群の描き方がとてもリアルで忠実だと皆さん仰っていました。なのでこれは是非観て頂きたい作品ですね。
アダムズ・アップル
シンプル・シモンと同じく、これもTNLFで上映した作品なので思い入れはありますね。人気俳優のマッツ・ミケルセン出演しているということだけでなく、作品自体が大変ユニークで面白いのでオススメです。
「映画祭を今やっていること自体が目的なんです。」
今年で10周年を迎えられたTNLFですが、雨宮さんが個人的に抱かれている今後の目標やヴィジョンみたいなものはありますか?
個人的にあんまり先のことは考えないタイプなので。ワークショップでたまたま集まったメンバーが、学んだことを実際にできるか実験してみようと始めたことが幸運にも10年続いたという感じで。私自身はTNLFを通じて何かを伝えたいというよりかは、TNLFをやっていること自体がとても楽しいですね。
そうなんですね。
では10周年を目指してやってきたというより、一年一年の積み重ねで10回目までたどり着いたといった感じですかね?
そんな感じですね。
今年できたからまた来年もやってみようかって一年一年続けていたら、10回目まで来ていました。本当に奇跡だと思います。笑 なので11回目があるかもまだわかりませんね。
なるほど。
この先TNLFがどうなっていくか予想できないのも、お客さんからするとより気になるところですね!
とにかく今年のTNLF楽しませて頂きます!
今回は、雨宮さんからトーキョーノーザンライツフェスティバルについてや北欧映画について色々お話を聞かせて頂きました。実際に現地に行かないと中々観ることのできない北欧映画を東京で観られるというのがトーキョーノーザンライツフェスティバルの醍醐味ですし、運営メンバーの皆さんによって選ばれた絶妙な作品はどれも興味深いものばかりです。選ばれる作品のテーマが多岐にわたっているのも、観る側としては様々な側面から北欧を感じることができて貴重な体験をすることができます。
北欧の価値観をお届けすることで、皆さんに非日常を届けたいと活動している私たちNorrとしても、是非皆さんに足を運んでいただき、北欧映画を通じて、リアルな北欧を存分に感じ、新しい北欧の一面を見つけてみて頂きたいです!これは2/8からの一週間、渋谷のユーロスペースに通い詰めることになりそうですね!
トーキョーノーザンライツフェスティバル2020についての詳細は下記リンクからトーキョーノーザンライツフェスティバルのホームページで是非ご覧下さい。
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スウェーデンで約一年間過ごした後、’’日本にはない価値観を届けよう’’と、RenとNorrを開設。
世界最北端の都市を訪れたり、北極圏でトレッキングしたりと冒険が生き甲斐。