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北欧にみる男女平等〜本当に女性は活躍できているのか〜

NorrライターのRenです。
本業はノルウェーの大学院生なので、普段は論文を読んだりする機会が多いです。ノルウェーへ拠点を移したことについて書いたブログはコチラからどうぞ!

大学では「北欧の社会保障やソーシャルワーク」を専門としているため、それに関する論文を読むことがほとんどです。その中で、「北欧の男女平等」について興味深い論文を見つけました。日本ではまだあまり知られていないであろう内容なので、今回はそれについて書いてみようと思います。

今回参考にするのは、2018年に発表された「The Nordic Glass Ceiling」というタイトルの論文です(最後に詳細を載せています)。

*glass ceiling = ガラスの天井を意味し、社会(特に女性の昇進)での見えないが打ち破れない障壁を指します。

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北欧の男女平等ってどれくらいなの?


論文の内容を見て行く前に、そもそも北欧ではどれほど男女平等が達成されているのかを見ていきます。2020年の「Global Gender Gap Index によると、それぞれの北欧諸国の順位は、


#1 アイスランド🇮🇸
#2 ノルウェー🇳🇴
#3 フィンランド🇫🇮
#4 スウェーデン🇸🇪
#14 デンマーク🇩🇰


でした。北欧勢がトップを独占しているのがわかりますね。

僕自身、数年前のスウェーデンでの生活や現在のノルウェーでの生活を省みても、確かに男女平等に対する意識はかなり強いなと感じることが多いです。例えば、移民局や教育機関をみると女性の数が(少なくとも日本よりは)多いなと感じます。警察官や刑務所の職員も女性が結構いる印象です。


↪︎僕が刑務所に訪問した経験についてはコチラをどうぞ




北欧の手厚い社会保障の影には何がある、、?


北欧が男女平等な社会の先駆者であることがわかったところで本題の論文へ。今回の焦点は、「北欧の手厚い社会保障の影」です。僕自身の経験ベースでも男女平等の意識が強く感じられるわけですが、そうではない見えていないところではどうなのか?

「北欧=男女平等」という図式が無意識にある人に、そうではない新しい見方、そして社会保障を手厚くするとどういう問題が出てくるのか、ということを北欧から少しでも学ぶことができればと思います。

以下の内容は、論文の翻訳、抜粋をベースにして書いたものです。あくまでも僕自身の私見は出来るだけ排除して書きました。予めご了承ください。









ヴァイキング時代から根強い男女平等の思想


北欧の歴史といえば必ずと言っても引き合いに出される「ヴァイキング(Viking)」
今でさえ「男女平等」のイメージが強い北欧地域ですが、実はかつてからその意識があったようです。

例えば、北欧の民話では女性は兵士として戦ったという記録が残っていたり、当時から女性が土地や財産を相続できたりしたそうです。これについては平等とはいかないまでも、1/3を女性に分け与えられることが保証されていたそう。離婚に関しても、女性にも選択する権利が保証されていました。

こうした女性への権利は今となってはさほど驚くべきことではなくなりましたが、当時の他の地域と比較すると、極めて先進的であったと言えます。

この考え方はもちろん後世にも引き継がれ、例えば、1850年にはアイスランドで世界で初めて無条件の平等な相続権が認められました。

税制を見てみると、北欧ではもともと共働きの家庭をベースに考えられており、課税方法が男女(夫婦)で別々です。例えば、高収入と低収入の夫婦の場合であっても、別々に課税されるということになります。

ちなみに、2015年の「YouGov」という調査では、「夫婦間で、男性よりも女性の方が収入が高いと問題が起こりうるか」という質問に対し、フィンランド(26%)、スウェーデン(20%)、ノルウェー(18%)、デンマーク(18%)が「Yes」と回答したそうです(アメリカは32%)。


こうした歴史の流れをみると、理想な社会のように聞こえるかもしれませんが、必ずしもそうとも言えないようです。




公的機関での女性職員の活躍を裏返すと、、?


北欧諸国では、教育機関や医療機関などの公的セクター(政治、教育、福祉、医療など)での女性就業率が高いです。これは裏返すと、「民間企業での女性活躍があまり芳しくない」と言えます。

Eurostat(1995)」による調査では、スウェーデンにおいて女性富豪の割合(top earners)は、6%とフランスの15%よりも大きく下回っています。

UCLA(2004)」の研究からはスウェーデンにおいて管理職や専門職に就く女性の割合は11%と、他の先進国よりも低い数値であったと報告されています。

こうした統計データや研究結果を元にしてみると、北欧諸国では「女性は公共機関に就く傾向がある」と言えそうです。これについては、公的セクターが女性の社会での活躍に一役買っているという見方ができます。

ただ、その一方で「女性就業率の高さ」が必ずしも「女性の活躍」とイコールになるとも言えない現状があります。北欧の公的セクターでも、いわゆる年功序列に近いような考えがあるため成果報酬・成果昇進とも言えないよう。それでいて、民間部門では女性が更に活躍する機会にブレーキがかかってしまっている。

その足枷として考えられるものは、、?





女性のキャリア進出の壁:高税率


北欧の社会保障は高税率によって支えられているというほど、高税率です。付加価値税(消費税)だけを見ても世界でトップレベルで高く設定されています(例えば、ノルウェーの標準付加価値税は25%)。→北欧の消費税について詳しくはコチラ

アメリカで1975〜2004年にかけて、独身の男女を対象に行われた研究があります。研究内容は「税率が人の労働意欲に与える影響」というものです。この研究結果から、男性は税率の変動に対して労働意欲の変化はあまり見られず、対して女性は逆の傾向が見られました。つまり、税率が高くなるほど労働よりも家事などに時間を充てるようになったそうです。また、代替可能なモノやサービス(家政婦など)については、税率が高いほど委託するよりも女性自身でやるようになったこともわかっています。

この結果から考えると、高税率の北欧では税率が高いことが女性の民間部門での進出の妨げになっている可能性があると懸念されています。


ノルウェーの通貨:Norwegian Krone




女性のキャリア進出の壁:手厚い社会保障


「育児休暇の充実!」など、今や北欧の象徴とも言える社会保障政策。本来なら国民の生活を援助するための政策ですが、意外にもこれが女性のキャリアを考える上で足枷になっているという見方もあります。

育児休暇が充実するということは、労働時間が短くなるということです。被雇用者からみると魅力的に思えますが、雇用主側からすると採用時の判断要素にもなり得ません。

欧米の採用は基本的に、ポジションが空き次第です(日本のように新卒採用はない)。仮に空いているポジションに女性がアプライしたとしても、育児休暇などで抜けてしまう可能性が大いにあるので、そこが合否のネックになることもあるようです。しかも、そのポジションが稀少であればあるほど採用が難しくなるというジレンマが生まれます。

これに因果があるとは言い切れませんが、傾向として企業で活躍する女性ほど、育児休暇をフルに活用せず短い期間で済ませるということがあります。

事実、女性管理職の割合で見ると、北欧諸国は他の国と比較して必ずしも高い位置にいません。

Table 1:女性管理職割合
(論文を元にライター作成)




ノルウェーの男女割当制の是非


これまで見てきた民間部門での女性の活躍を促進させるために、ノルウェーでは2003年より割当制を義務付けました。これは、公的な企業の役員のうち40%を女性にすることを義務付けたものです。

問題点としては経験の浅い人材を役員にせざるを得ない状況が出てきたことです。女性登用と企業での多様性を促進する意図があったのですが、かえってマイナスに働き、10%女性メンバーを登用するごとに、12%以上企業価値が下がったという研究結果も出ています。

社内に多様性を持たせた方が企業としてのパフォーマンスは上がることがわかっていますが、これは制度的にどんどん登用していくのではなくてあくまでも能力重視での場合に当てはまります。

同様に、デンマークの2500社を対象にした研究では、女性役員を積極的に採用することと関係が深いのは、経験や能力が前提となっている場合であって、あくまでも個々人の裁量に左右されることがわかっています。

つまるところ、ノルウェーの割当制のように制度を以ってして女性を積極的に採用していくのではなく、成果に焦点を当てた方が企業の業績は良くなるということです。

事実、「The Nordic Labour Journal(2015)」によると、ノルウェーでは割当制が施行されて以後10年弱が経っても大手60社には1人も女性CEOがいないようです。

このノルウェーの事例から割当制の是非が問われています。

Tabel 2:The Economist’s glass-ceiling index
(論文を元にライター作成)
*一部抜粋

*Table 2 補足:就業率について、0%に近いほど男性と同じくらいの割合で就業しているということになります。




立ちはだかる見えないガラスの壁


これまで見てきたように、北欧特異の社会保障制度や税制、家族手当、割当制が見えないガラスを作っているようです。

もちろん、冒頭で見たように他国と比較して女性就業者率は極めて高く、政府としても女性の活躍を促進しようとしています。ただ、民間部門での管理職など稀少人材で見ると、女性はあまり活躍できていない現状があります。

Table 1 で見た国別の女性管理職を割合を見ると、アイスランドを除いた4カ国は決して高い割合ではありません。これは政府の大きさと関係があると考察でき、比較的小さい政府であるアイスランドでは女性管理職が多く、大きい政府であるスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドは少ない割合になっています。アイスランドに並んで上位の国(ニュージーランド、アメリカ、ラトビア)は相対的に小さい政府として機能しているため、ここに因果が見られそうです。

もちろん、政府の大きさは1つの指標にしかなり得ませんが、政府のサイズと女性の管理職の割合の関係にはどこか相関関係が見られそうです。


政治においては北欧での女性の活躍は著しいです。議会に占める女性議員の割合で見ると、デンマーク(37%)、スウェーデン(44%)などと他国よりも多くの女性が政治分野で活躍しています。

総体的に見て、女性が社会に対して大きな影響を与えている北欧諸国。それを支える手厚い社会保障政策。これからの社会福祉政策の鍵となるのは、いかにして女性の能力を十分に発揮できるかという点にあります。










最後に


今回取り上げた論文は、一見すると非の打ち所がないように見える北欧社会の抜け目に焦点が当てられていました。常にジェンダーギャップでは世界のトップランナーであり続ける北欧にもこうしたジレンマがあることはこれを読んで知りました。

ただ、他の国と比較すると男女平等な社会に近いのは事実であって、日本社会と天秤にかけてみるとその差は歴然です。そうした高度に発達した社会だからこそ浮き彫りになった問題をどうやって克服していくか、そこがこれからの北欧諸国の課題になるんだろうなと思います。

福祉の最大公約数をとるとするのであれば、現在のような社会民主主義的な皆が平等に生きられる社会が最適解と言えるでしょう。ただ、そこに「平等」と相反するような資本主義という言葉を考慮するとまた違ったアプローチが求められそうです。

常に変化し続ける北欧社会は今後とも目が離せません。


ps.
今回初めて論文についてブログを書いてみました。ネットではなかなか得られない見方を知ることができるので、これからも論文の紹介を少しずつしていこうと思います。





●今回参考にした論文:

Sanandaji, N. (2018). The Nordic Glass Ceiling. Cato Institute. https://www.cato.org/publications/policy-analysis/nordic-glass-ceiling


参考:

>World Economic Forum「Global Gender Gap Report 2020」

http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf

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