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高卒後は一人暮らしが当たり前?スウェーデンの若者が抱える孤独

こんにちは、NorrライターのRenです。

『北欧諸国=幸せの国』というイメージがある人も多いと思うのですが、ノルウェーに住んでいると「ほんとにそうだっけ?」と思わさせることが多々あります。

街を歩いていても、1人でいる人を見かけることは少なくなく、背中はどこか寂しそう。寒くて、長くて、暗い北欧の冬がそうさせているのかもしれませんね。


今回のブログは、BBCに掲載されている「Why so many young Swedes live alone」という記事を翻訳、抜粋、そして文脈によってライターが補足したものをお届けします。幸せだと思われがちな北欧スウェーデンの実態はどうなのか、少しでも学びになれば幸いです。




スウェーデンの若者は一人暮らしが当たり前?


アメリカの統計では、多くの若者が家族と一緒に暮らしているそう。それから2019年のイギリス企業の報告によると、23歳のイギリス人のうち1人で生活する割合は1998年の37%から、2008年には49%に上昇したと言います。少なくともアメリカとイギリスでは、1人暮らしの若者が増えるどころか減り、実家で暮らす人が多いよう。

しかし、スウェーデンでは全く逆で、高校卒業後の18〜19歳にかけて一人暮らしを始めるのが主流なんだとか。これは、ヨーロッパ人の中で一人暮らしを始める年齢の平均値である26歳よりも大きく下回っています。

もちろん、ここでいう「一人暮らし」とは、シェアハウスや学生寮ではなく、全く以って「一人暮らし」です。

スウェーデンの首都ストックホルム北西部に1人で住む19歳の女性はこう言います。


「ずっと一人暮らしがしたくて、いつでもできるようにしていました。」

彼女は家賃8000クローナ(≒9万円ほど)の家を長期契約して、稼いだ給料から切り盛りしているようです。彼女はセキュリティー会社に勤めているそう。


彼女曰く、一人暮らしのメリットは


親や兄弟姉妹の力を借りずに、自分の力で生活する力を養えること



スウェーデンの家庭のうち実に50%以上が一人暮らしの家庭のようで、これはEUで見ると最も高い数値です。ストックホルム大学の教授G・Aさんによると、「この傾向は個人主義が強いスウェーデンでは一般的なことで、むしろ子どもがずっと家庭に居続けることの方が珍しい。」とのこと。

続けて、
「これは今に始まったことではなく、かねてからの慣習が形を変えて今にも引き継がれています。農業に勤しんでいた田舎地域では家を出て違うコミュニティーへ移動することがあり、そこで農業に従事していたんですね。

今となっては産業が盛んになったけれど、その慣習は未だ続いていて、これを可能にしているのがスウェーデン特有の社会保障政策。例えば、低価格な住まい、医療制度、無償の教育機会などがあり、これによって親戚の援助なしに生活することが可能になっています。」
と付け足しました。




一人暮らしが孕む『孤独』


1人でやることの孤独感

歴史的背景から、今日の福祉政策によって若者の一人暮らしが可能になったことがわかりましたが、その一方でそれが「孤独」を生んでいるようです。

スウェーデンの健康慈善団体の主任K・Sさんによると、「若者が一人暮らしをすること自体は良いことです。ただ、自由であることは同時に考えることがたくさんあることでもあるので、その準備ができていない人にとっては負荷が大きい。」と言います。

実際、21歳女性I・Sさんへのインタビューでは「最初はやることが多くて大変だった。請求書の支払い方法なんてわからなかったし、公的な文書の作成も骨が折れました。お金がつきまとうストレスも感じるし、炊事、洗濯など身の回りのことを全て自分でやらなきゃいけないのもストレスになります。」


Tove Freiij/imagebank.sweden.se




精神的孤独を感じる若者

K・Sさんは続けて、精神的な孤独感を感じやすくなっていると説明します。SNSが普及したことによって、オンラインでの人の繋がりは強くなったものの、いざという時に感情を伝えられる知人がいないケースが多いようです。

2017年のスウェーデン統計局の調査では、16~24歳の55%以上が親族との接触が少ないというデータが出ました。

K・Sさん曰く、孤独と特定の精神的疾患を結びつけて考えることは難しい。しかし、2018年の国家健康福祉委員会によると、過去10年間で精神的疾患を抱える人の割合が70%増えたそうです。

ストックホルム近郊に住む26歳の男性C・Sさんは、「一人暮らしを始めてからこれまでにないくらいの孤独を感じました。やる気がなくなってどこか悲しくなって、朝でも太陽が出てる時でも元気が出なくなることがありました。ただただ時間が早く進んで欲しいと思ってましたね。」

彼は続けて、「オーストラリア旅行で友達とルームシェアをした時に気づいたんです。スウェーデンでは大人になるように、大人のように振る舞うようにどこか圧を感じます。家族や友達と暮らすよりも1人で暮らす方が大変です。」

2013年以来国勢調査が行われていませんが、スウェーデン統計局による研究から16~24歳のうち16.8%が「過去2週間に孤独を感じた」と回答。世代別でみたときに、75歳以上の年代(17.4%)の次に多い数値です。



ウメオ大学の社会学者F・F・C博士によると、スウェーデンの孤独の多くは「一人暮らし」に起因すると言う。ただ、これに関しては少し慎重に議論する余地があるとも言います。

つまり、若者の方が大人の一人暮らし者よりも「孤独」であることを口に出しやすいかもしれない。それに、近年「孤独」についての関心が高まってきているため、前世代よりも孤独を感じやすいかは断言できない。

事実、2014年に行われたEuropean Social Surveyでは、5%のスウェーデン人が慢性的な孤独を訴え、これはヨーロッパの平均値7%よりも少し低い。




新しい形のシェアハウス?


これまで見てきたように、スウェーデンでは若者の孤独への関心が高まっています。メディアでも取り上げられることも多いようで、スタートアップ「No Isolation」では、孤独に対処する役職の設置を呼びかける運動もしているようです。人々をいかに社会に巻き込んでいくかがポイントのようで、それはスウェーデンが「友達の作りやすさ」に関するランキングでしばしば最下層にいることが物語っています。

そうした孤独を感じる人たちが集まる住居空間を作る動きが近年高まっています。2011年には、ストックホルムの建物がコーリビングスペースとして北欧で初めて正式に認められました。使われなくなったホテルを改装してそこに特定の能力を持った人々(弁護士、教師、コンサルタントなど)が集まる場もできているようです。


Vilhelm Stokstad/imagebank.sweden.se


住空間以外でも人が繋がるようなアプリ開発も進んでいて、同じような趣味・興味を持つ人と繋がるためのアプリ『Panion』や、女性限定で趣味をベースにマッチングできる『GoFrendly』などがそれです。

こうした動きが進む一方で、ストックホルム大学の教授G・Aさんは「今後こうした動きが活発になっても爆発的に広がることはないだろう。あくまでもスウェーデン人には深く根付いた個人主義的ながあるので、それを取り払うことはなかなかできないはず。」と話します。


結びにはインタビューイーのI・Sさんの言葉で締められています。

「一人暮らしは時として大変で、孤独なこともある。だけど、その分学ぶことは多いし、たくさん成長できるはず。」

この言葉から、こんなスウェーデンのことわざを思い出したそう。


“Ensam är stark.”

(=Alone is strong.)




幸せと思われがちなスウェーデンでの現実が少し垣間見れたような気がします。北欧は人口が少ない地域で、一番人口が多いスウェーデンでさえ1000万人ほど。東京の人口にすら届きません。

そんな少ない人口の中で、どうやって孤独と折り合いを付けていくかは一筋縄ではいかない問題です。今回の記事でも挙げられていたように、SNSが急速に普及した一方で、人との直接的な繋がりは希薄になっています。これは北欧だけでなく、日本でも当てはまることです。感情をSNSに吐き出すことが容易になった反面で、そのリアルな声を「オフライン」で聞けなくなるのもどこか寂しい気がします。

家族のあり方、個のあり方、社会のあり方は時代と共に変わっていくはずなので、その時々の最適解をどうやって見出していくかが今後とも大切になってきそうですね。

今回は、BCCの記事からスウェーデンの若者が抱える「孤独」について取り上げてみました。改めて北欧の問題点を見直す機会になったと共に、僕自身「孤独」とこれからどう向き合っていくのかを考え直す機会になりました。




●今回参考にした記事:

BBC「Why so many young Swedes live alone」:https://www.bbc.com/worklife/article/20190821-why-so-many-young-swedes-live-alone

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