NorrライターのRenです。
「突然ですが、刑務所に行ったことのある方はいますか?」
すごく変な質問ですね。ほとんどの人はないはず。テレビをはじめとするメディアを通してしかみたことがない人がほとんどだと思います。僕自身もその1人だったのですが、先日授業の一環で刑務所に見学する機会がありました(ノルウェーにいる理由についてはコチラからどうぞ)。今回はいつもの記事の形式を取りながらブログ調でノルウェーの刑務所についてご紹介します。
ノルウェーの刑務所ってどんなところ?
まずは概要について簡単にまとめておきます。
- 刑務所:国内43箇所
- 収容人数:4000人程度
- 最長懲役期間:原則21年間(戦争犯罪やテロ等の場合は例外)
- 平均懲役期間:8ヶ月
- ポリシー:One Man One Cell(1人につき1部屋)
- 再犯率:20%(2年以内)※アメリカ 60% / 日本 30%
- スタッフ:非武装、40%が女性スタッフ
- 仮釈放時の帰還率:99%
こんなところでしょうか。ここで注目しておきたいのが、再犯率20%です。これは世界的にみてもかなり低い数値で、アメリカとの差は歴然ですね。
刑務所の中ってどうなってるの?
今回はノルウェー南西部に位置するÅna Prison(オーナ刑務所)というところに見学しました。この刑務所は男性のインメイト(受刑者)のみが収容されている場所のようです。
収容人数は164人で、そのうち外国籍のインメイトは35%ほど。年齢層は18〜80際までと幅広いです。
※もちろん所内での写真撮影などはできなかったので、全て言葉でのご説明になります。
刑務所に着いてまず案内されたのが、実際にインメイトが生活するコモンスペース。そこに広がっていたのは、見慣れた空間でした。
10人前後が居られることのできるスペースがあり、そこにはキッチンも冷蔵庫もあります。温かいご飯が食べられそうです。
おまけにテレビやボードゲームなんかも置いてあって、学生寮みたいな空間でした。内装も木が剥き出しであったりと、どこか温かみを感じる作りでした。
次に案内されたのが、インメイト一人一人に与えられるプライベートスペース。
俗にいう「独房」というところです。
中は4畳くらいの広さですが、ベット、便器、椅子、テーブル、それにテレビまで。色々と完備されていて、思い描いていたような刑務所の部屋ではありませんでした。部屋の中にも木がそのまま使われていました。映画の影響があってか監獄の中はグレーで暗いイメージを持っていましたが、ノルウェーではもっと明るい。
屋外にはバスケットコート、バレーボールコートがあり、インメイトが体を動かすこともあるようです。それにトレーニングバイクが置いてある部屋もありました。
「ここって本当に刑務所なの?」
そう思わざるをえないくらいの充実ぶり。日本では考えられないような空間がそこにはありました。
インメイトの部屋の次は刑務所内の学校へ。この刑務所には18〜80歳と幅広い年齢層のインメイトがいるので、教育を受ける場所がありました。
英語の授業があったり、ノルウェー語の授業も。
パソコンルームもあったり、ギターも置いていたので、外の学校とそう大差はなさそうです。
社会復帰に真剣で、スタッフが信頼のおけるインメイトには仕事が与えられるそう。それは農業関係であったり、建物のメンテナンスであったり。限りはありますが、仕事をもらえているインメイトは数十人いるようでした。
※Åna Prisonの収容人数は164人
再犯率20%を達成できるのはなぜなのか?
再三ではありますが、ノルウェーの刑務所の再犯率は20%です。一度罪を犯して収容されてから再び罪を犯してしまう人が20%いるということです。これが絶対的に低いのかはわかりません。ただ、他の国と比較してみると極端に低いことがわかります。
学生寮みたいな空間で教育も受けられる。世間一般で考えられるような刑務所ではないのかもしれません。ただ、この刑務所への見学を通して一つ強く感じたことがありました。
“社会と繋がり続けること”
日本語では一般社会のことを「シャバ」なんて表現したりして、刑務所と線引きをします。しかし、ノルウェーではどうもそうではないよう。今回僕が見学した刑務所はノルウェーでも珍しく柵で敷地が囲われていない場所。社会との距離を保ち続けることが大切にされているようです。
罪を犯したら罰されるのが一般通念。しかし、ノルウェーでは「罰するよりも治す」ことに重きが置かれています。ノルウェーではたとえインメイトであっても「自由を奪うこと」自体が罪に値するよう。
前述の通り、ノルウェーの刑務所の平均懲役期間は8ヶ月です。この8ヶ月間、全くもって社会と隔離されていたらどうでしょう。8ヶ月の時を経て、いざ「シャバ」に戻ったときどう感じるでしょうか。
「社会に受け入れられるかな」
「どんな目で見られるんだろう」
そう感じるかもしれません。そんな孤独感は時として再犯に繋がってしまいます。そうならないためには、社会と隔絶させないことも大切なんだと感じました。もちろん、罪を犯して人を傷つけた人は社会的には良い存在ではありません。ただ、同じ人間社会で生きていく以上、そんな人に対しても手を離さず受け入れるような姿勢が大切であるように感じました。
刑務所というところは人にとって感じ方やイメージが異なります。ノルウェーのやり方が絶対的に正しいかまではわかりませんが、こうした手段で社会に復帰できる人が増えているのは事実なので、何か学べるところがあるように思いました。社会的な動物である以上、人との繋がりを保つことで人間でいられるのかなと感じました。
以前Norrの記事で「世界幸福度ランキング」について分析をした記事を投稿しました。北欧での幸福の鍵は何なのか、というのがテーマなのですが、結論からいうと「社会的なサポート」があるか、つまり、必要なときに手を差し伸べて助けてくれる人がいるか、ということです。
北欧諸国は他の国より突出してこの数値が高いんです。記事の詳細についてはコチラからどうぞ。
今回の経験は統計から見た事実と僕が感じた視点からの記事です。人によっては感じ方が異なると思うので、あくまでも一つの見方として受け取っていただけた嬉しいです。
参考:
※ノルウェーの刑務所の概要はÅna Prisonからいただいた資料に基づいています。今回は情報提示は控えさせていただきます。
ノルウェー矯正サービスHP:
https://www.kriminalomsorgen.no/index.php?cat=265199
Business Insiderより:
https://www.businessinsider.com/why-norways-prison-system-is-so-successful-2014-12?r=US&IR=T
法務省だより:あかれんが
http://www.moj.go.jp/KANBOU/KOHOSHI/no44/2.html
アメリカ合衆国における再犯率に関するデータ:
https://www.bjs.gov/content/pub/pdf/18upr9yfup0514.pdf
文筆家、写真家、イラストレーター。学部時代のスウェーデン留学が大きな転機となり、北欧のウェルビーイングを身体で学ぶべく、ノルウェーとデンマークの大学院に進学。専門は社会保障、社会福祉、移民学。2021年6月両国にてダブルディグリーで修士号取得後、帰国。現在は、アニメーション業界に飛び込み、ストーリーテリングの観点から社会へ働きかけるべく活動を広げている。フリーランスとしても活動している。又、北欧情報メディアNorrから派生した「北欧留学大使」を主宰し、北欧留学支援もしている。
■これまでの活動歴:「令和未来会議2020”開国論”(NHK)パネリスト出演」、「デモクラシーフェスティバル2020(北欧5カ国大使館後援)イベント主催」、その他講演多数