近年脚光を浴びるようになった北欧諸国の教育。大学まで無償で受けられるユニーバサルな教育方針や教育システムが日本に留まらず世界中から注目を集めている。
2000年より始まったPISA(国際学習到達度調査)では、フィンランドが各分野(読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー)において突出した結果を修めたことも記憶に新しい。世界で最も名誉ある賞としても取り上げられるほどのノーベル賞を生んだのは北欧の大国、スウェーデン。
北欧5カ国を合わせても3000万人にも満たない北の小国でありながら、QSなどの世界大学ランキングでは上位に位置する大学も少なくない。
一方で日本の教育システムはどうか。PISAではフィンランドと同様に、世界でも好成績を修めていると言える。しかし、2018年に実施されたPISAの結果から日本の学力の低下を懸念する声も多い。近代学校教育制度を形作った1872年(明治5年)の学制発布以降、その外形は未だなお原型を留めている。ガラパゴス化したと嘲笑される日本の教育制度はこれからどこへ向かうのか。
この章では、教育システムと教育現場に見る違いについて、「タテな日本」と「ヨコな北欧」として見ていきたい。手順として、まず日本と北欧5カ国が世界においてどんな立ち位置いるのかを確認した上で、深く見ていきたいと思う。
世界で見る日本と北欧の立ち位置
QS世界大学ランキング
QS世界大学ランキングとは、 イギリスのクアクアレリ・シモンズ社(Quacquarelli Symonds)によって毎年公表されているものである。ここで、世界における日本と北欧諸国の大学の立ち位置を確認しておきたい。下図は、2020年のQS世界大学ランキングでの、上位200位から日本と北欧の大学を抽出したものである。尚、アイスランドの大学はいずれもランキングには入っていなかった。
総合順位で見ると、日本の大学の方が立ち位置としては良いことがわかる。ただ、このランキングの指標になっている要素別で見るとまた違った見方ができる。詳しくはご自身でQSホームページでご確認していただきたいのだが、例えば、日本の大学は高等機関としての「知名度」が高く、論文の引用回数や国際性では低い傾向にある。対して、北欧の大学ではどうか?スウェーデンを例にとると、日本とは相反する傾向がみられる。つまるところ、大学としてのブランド力のスコアはそこまで高くないにしろ、論文の引用回数や国際性という観点から見ると、日本のトップ大学を優に超える勢いである。
日本とスウェーデンの人口規模の差を考えると、1億2000千万人対1000万人ということで、大健闘であるように思う。この背景には国としての人的資源獲得のために、早々に国際化を図ったと考えられるだろう。
PISA(国際学習到達度調査)
続いて、フィンランドの教育が一躍有名になったPISA(国際学習到達度調査)のランキングをみていく。PISAは2000年より始まった国別の学力到達度を調査したもので、3年ごとに行われている。直近の2018年に行われた結果について2019年末に公表されて世間を賑わせた。対象は15歳で、「読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー」の3つの指標をもって順位がつけられる。初回は32カ国(OECD加盟28カ国+非加盟4カ国)を対象に行われたが、2018年には79カ国(OECD37カ国+非加盟42カ国)を対象に約60万人の生徒が対象になった。
あくまでもPISAでみているのは、義務教育修了段階での生徒がもつ知識・能力の実生活での応用能力であって、学校のカリキュラムの履修状況ではない(国立教育政策研究所によるPISAの報告参照)ということを頭に置いておきたい。
補足だが、PISAでは毎回3つの分野(読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー)の中から1つの分野が「中心分野」として重点的にみられていて、毎回循環しながら変わっている。このため、2000年の初回は読解力が中心分野として重点的に見られ、続いて、2003年に数学的リテラシー、2006年に科学的リテラシーとなっている。2018年の調査では、読解力が中心分野であった。
今回、PISAのデータを参照した国立教育政策研究所によると、「中心分野として調査を実施した以降の得点は比較することができるため,科学的リテラシーについては 2006 年以降,読解力については 2000 年以降,数学的リテラシーに ついては 2003 年以降との比較が統計的に意味のあるものとなる。」と説明しており、そのため年度によってデータ数に偏りがある。
以上の経年変化をみると、両地域も世界的な学力の高さが手に取るようにわかる。特にフィンランドと日本に関しては、頭一つ抜き出ており、アイスランドは少し遅れをとっている。
QS世界大学ランキンングとPISAをみてわかるのは、日本と北欧、両者においてもかなり高水準の教育が施されていることだ。こうした前提を確認できたところで、次節では、具体的にそれぞれどのような教育文化があるのかをみていきたい。
文筆家、写真家、イラストレーター。学部時代のスウェーデン留学が大きな転機となり、北欧のウェルビーイングを身体で学ぶべく、ノルウェーとデンマークの大学院に進学。専門は社会保障、社会福祉、移民学。2021年6月両国にてダブルディグリーで修士号取得後、帰国。現在は、アニメーション業界に飛び込み、ストーリーテリングの観点から社会へ働きかけるべく活動を広げている。フリーランスとしても活動している。又、北欧情報メディアNorrから派生した「北欧留学大使」を主宰し、北欧留学支援もしている。
■これまでの活動歴:「令和未来会議2020”開国論”(NHK)パネリスト出演」、「デモクラシーフェスティバル2020(北欧5カ国大使館後援)イベント主催」、その他講演多数