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【第2章】コミュニケーションにみる『タテ』と『ヨコ』

タバコミュニケーションという造語


 

続いてみていくのが、タバコに関するコミュニケーションである。巷では「タバコミュニケーション」と呼ばれるコミュニケーション手段だが、主に社内での上司・部下間が引き合いに出されることが多いようだ。言うまでもなく、「たばこ」と「コミュニケーション」を文字って、「タバコミュニケーション」という造語が使われている。

まず、近年の日本の喫煙者事情について統計データを元にみていきたい。以下は、日本たばこ産業株式会社(JT)が2018年に行った全国調査とそれまでの推移である。

 

上記サイトを参考に筆者作成
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このグラフから一目瞭然であるが、男性の禁煙率が3割前後で推移している。一方で、女性は1割に満たない割合で喫煙者がいるようだ。いずれにせよ、喫煙者は年々減少傾向にあり、全体としては2割を下回るくらいであることがわかる。

タバコミュニケーションは、原則として喫煙者間でのコミュニケーションであり、日本人の中でも限られた人でしかされていないことをあらかじめ頭にいれておきたい。

 


コミュニケーションのためにタバコを吸う?


 

喫煙者が吸う理由は様々であるだろうが、その中に「コミュニケーションのため」という動機はあるのだろうか?株式会社クロス・マーケティングが2018年に行った調査をみていく。以下のグラフは一都三県(東京、神奈川、千葉、埼玉)に在住の20〜69歳の男女2000人を対象に行った調査である。

 

上記サイトを参考に筆者作成
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「気分転換」や「リラックス」のために喫煙している人がいるのは容易に想像できるのだが、「喫煙者同士のコミュニケーション」のために喫煙すると回答した人が14.7%いるというのには驚きだ。複数回答での結果であるとはいえ、コミュニケーションが動機になっている人が一定数いるというのが日本の喫煙事情のようだ。

 


タバコミュニケーションの機能性


 

日本人のおよそ20%が喫煙者であり、そのうちの15%程度がコミュニケーションのために喫煙していると言うことがわかったところで、そのタバコミュニケーションがいかにして対人関係、ひいてはタテの関係性構築を促しているのかについて見ていく。

株式会社マイナビが読者500名(2015年実施)に対して独自に行ったアンケート調査によると、回答者の過半数がタバコミュニケーションの存在を認知しているようだ。

少なからずメリットはあり、自明ではあるが喫煙室という閉鎖空間にて人間関係が構築されて仕事が円滑に進むことも少なくないようだ。調査の中では実際にこんなポジティブな回答が得られたよう(以下、マイナビHPより抜粋・引用)。

  • 「喫煙者同士は仕事以外の話で仲良くなれる」(32歳男性/電機/技術職)
  • 「喫煙室での会話や情報共有がもとに仕事が進んでいる」(30歳女性/学校・教育関連/クリエイティブ職)
  • 「気難しい上司と仲良くなれて仕事が円滑に進んだ」(26歳男性/農林・水産/技術職)
  • 「他部署の人と仲良くなれる」(30歳女性/生保・損保/事務系専門職)
  • 「上司との話し合いで取引に役立つ情報が得られた」(28歳男性/運輸・倉庫/技術職)

タバコミュニケーションによって上司部下の関係性が円滑になるという声はあるようだ。同時に、タテの関係だけでなく、部署の垣根を超えたコミュニケーションの場にもなっているとも読み取れる。

大まかに、タバコミュニケーションは「関係構築」「情報交換」の場として機能している。一方で、非喫煙者からは「吸う人だけで社内人事情報が広がって腹が立ったことがある」「喫煙者だけ休憩が多い」「いつも”タバコミュニケーション”をするのは課長と主査。長時間離席しているので承認作業が進まないことも多く困りますね」などの批判的な意見や、喫煙者・非喫煙者間でのやり取りがかえって上手くいかないこともあるとの意見も見受けられた。

同じような調査が転職サービスDODAでも行われた(2010年実施)。こちらの調査結果からはこんな声が上がっている。

  • 喫煙所は重要な会議場所になっている
  • 喫煙所で別の部署の人や役員などと知り合え、人脈が広がると思う
  • 上司が非喫煙者の場合、あまり良いイメージを持たれない
  • 非喫煙者は喫煙者グループに入りづらい

ここでも様々な声が見られた。役員や上司などが必ずしも喫煙者ではないにしろ、「たばこ」を介してこそ出来るコミュニケーションがあるのは確かなようである。その点、非喫煙者はそういった媒介がないとなかなか繋がることができないということも想起できる。

 

上記サイトを参考に筆者作成
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上記のグラフからわかることは、タバコミュニケーションが人間関係にプラスに働いていると感じる人が54%いるということだ。少なからず過半数(57%)が何かしらのメリットを感じていることも興味深い。

 

これまでみてきたように、タバコミュニケーションという意思疎通手段は限定されたコミュニティー間ではあるが、確実に存在するようだ。「たばこ」という共通項、喫煙所という閉鎖空間だからこそ生まれるコミュニケーションの存在も疑いようがない。

それ自体が必ずしもタテの関係性を生んでいるとは言えないが、現に普段はなかなか打ち解けられない役員・上司と繋がるきっかけとなっている人が一定数いるようなので、これは1つ日本社会の「コミュニケーション」にみるタテな文化だと言えそうだ。

 


休日返上でのゴルフというスポーツ


 

最後に、ゴルフにみるタテなコミュニケーションについてみていく。ゴルフと聞くとどんなイメージを想起するだろうか?ゴルフ経験のない筆者からすると、「大人のスポーツ」「仕事の延長線上での付き合い」といったイメージが先行する。

事実、同じようなイメージを持つ人は割合多いことがデータからわかる。2019年にCCCマーケティング株式会社が全国の20〜79歳の男女2024人を対象に行った調査結果を参考にする。この調査の被験者のうち、ゴルフ経験者・未経験者はそれぞれ1005人と1019人とほぼ同値である。

「ゴルフに対するイメージ」に関する項目では男女別で大きな違いが見られた。20〜30代および40〜50代の男性において「会社の付き合い」と答えた人は、それぞれ58%、53%である。60〜70歳の年長者男性になると同項目は17%に過ぎず、「健康に良い」が83%で一番高かった。

一方で、女性はどの年代においても「健康に良い」が一番高い割合であった。

これはあくまでもイメージなので、実際にゴルフを始めた人がどんな理由で始めたのかを次節でみていく。

 


付き合いでのゴルフには飽き飽き?


 

2013年に株式会社リクルートライフスタイルが全国の20〜69歳の男女25000人に行った調査をみていく。以下は、ラウンド経験者が答えたゴルフを始めたきっかけである。


 

上記サイトを参考に筆者作成
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このグラフをみると、若年層の方が始めたきっかけとして「家族・友人」などのヨコの関係が関わっていることがわかる。年齢層が高くなるにつれて、仕事絡みでゴルフを始めたようだ。一方で、緑の「自主的に行った」という項目については、その年齢層においても10%前後に留まっている。株式会社リクルートライフスタイルの考察として、「ゴルフは誰かを誘い、誘われる始めて経験に至るスポーツ」だと述べている。

一方で、今回の全体の命題となっているコミュニケーションにおける「タテの文化」についてはどうであろうか。仕事関係とひとえに言っても、上司、同僚、部下、取引先など様々である。以下のグラフは、年代別の仕事関係でゴルフを始めた人を細分化したものである。

 

上記サイトを参考に筆者作成
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このグラフからわかるのは、20代つまり現在の若者の方が上司に誘われてゴルフを始める人が多いということだ。60代を見ると、緑の割合が他の年代と比べて大きいことから、かつては取引先などの仕事関係者との関係性構築のためにゴルフを始めた人が多かったと推測できる。それが現在に近づくにつれ、「上司から誘われた」という割合が高くなっている。

全体の分類で見ると、若年層は「家族・友人」が始めるきっかけとなっている人が多いことがわかるが、細分化してみると「仕事関係」においては上司に誘われたことが大きな動機となっている。断定はできないが、1つの傾向として仕事付き合いというよりはタテの関係のためにゴルフを始める人が増えてきていることがわかる。

これについて、同調査からもう1つ興味深い結果が出ている。ゴルフ未経験の20代でかつゴルフへの意向を示す人に限った質問、「あなたは、誰から誘われたらゴルフを始めたいと思いますか。」に対して以下のような結果が出ている。

 

上記サイトを参考に筆者作成
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圧倒的に「友達」の割合が高いことが一目瞭然だろう。先ほど確認した、20代(就業者)の仕事関係の内訳と比較すると、理想と現実には大きなギャップが見受けられる。つまり、理想としては「友達」と行きたいはずのゴルフであるが、実際には「仕事関係」、特に「勤務先の上司」に誘われて始める人が多いようだ。

 

以上見てきたように、休日のゴルフにもある種のタテ社会を加速させるコミュニケーションのあり方が存在しているように思う。これはもともと存在する上司部下の関係性があってこそのタテなコミュニケーションであるから、ゴルフ自体にタテ社会を生み出す要因があるとは考えにくいが、前述の通り、促進する要素としてみることができるだろう。

 

これまで見てきた、「飲みニケーション」「タバコミュニケーション」「ゴルフ」は典型的な日本のタテなコミュニケーションのあり方であると言えそうだ。少なくとも筆者のこれまでの経験則でいうと、こうしたタテのコミュニケーションは北欧にはあまり見ない。

これらを悪しき慣習として批難するのは妥当だとは思えないが、自身の意思に背いてコミュニケーションをしているのであればこれは息継ぎのしにくい日本のタテ思想と言えるだろう。タテの関係性にとらわれない代替案として、フラットなコミュニケーションの方法論を取り入れるべきなのかもしれない。そんな水平的な意思疎通手段について、次節で北欧から習ってみよう。

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