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【第2章】コミュニケーションにみる『タテ』と『ヨコ』

北欧にみるヨコなコミュニケーション


 

なぜ北欧でコーヒーが飲まれるのか?


 

北欧ではヨコなコミュニケーションの手段としてしばしば「コーヒー」が引き合いに出されるように思う。かつてのスウェーデンへの留学、それから現在のノルウェーでの生活を通して、筆者はコーヒーと北欧のヨコ社会の関係性の強さを感じてきた。

そもそも、北欧でどれだけコーヒーが飲まれているかをご存知だろうか?まずは、国別にみる一人当たりのコーヒー摂取量から北欧のコーヒー事情について確認したい。


 

上記サイトを参考に筆者作成
©️北欧情報メディアNorr

 

このランキングから見てわかるように、北欧諸国がトップ4カ国を独占しており、スウェーデンが少し遅れて6位に位置している。このランキングではトップ25位までが掲載されているが、日本はいずれにもランクインしていなかった。

フィンランドが2位のノルウェーと大きく差をつけて、1人当たりの年間12kgものコーヒーを消費している。これだけ聞くとピンとこないかもしれないが、フィンランド人の中には1日に5~6杯飲む人も少なくはない。朝の寝起き覚ましとしてコーヒーをグビっと飲むのが一般的である日本において、この5~6杯というのは驚きではないだろうか?

筆者もスウェーデン留学やノルウェーの大学院での生活を通して、どれほどコーヒーが重要な存在であるかを感じてきた。嗜好品と分類されることが一般的であるコーヒーも、北欧においては「生活必需品」とでも言えるくらいに不可欠な飲料なのである。

こんなにも飲まれるのにはマジックなどはなくしっかりとした種明かしができる。これが今回のトピックであるコミュニケーションと深く関わっているのだが、他にも考えられることもある。

コーヒーの生豆は淡緑色をしているだが、これを焙煎して一般的に知られる茶色い色味になる。この焙煎の過程で、北欧でよく飲まれる焙煎の方法がある。それがいわゆる浅煎りであり、この北欧風の焙煎方法を「ノルディックロースト」として呼ぶこともある。

浅煎りがゆえに、苦味が少なく酸味の強いスッキリした味わいを引き出すことができる。つまり、この飲みやすさが消費量の増加に繋がっていると考えられるのである。但し、これはあくまでも一例であり、そもそもこの浅煎りが主流とも言い切れない。ずっしりとした苦味のあるコーヒーを提供するコーヒースタンドも数多くあるため、これが大きな要因ではないはずだ。

念の為ではあるが、北欧の寒い気候とコーヒーが結びつくのは言うまでもない。

次節以降で示すものを大きな要因として捉えた方が妥当であろう。

 

北欧のコーヒー文化を再現する東京・秋葉原に構えるKIELO COFFEE。コーヒーを思わせない色味とスッキリとした味わいをぜひご賞味いただきたい。

 


北欧のコーヒー文化の代名詞「フィーカ」


 

北欧のコーヒー文化と聞いてまず思い出すのが「フィーカ(fika)」である。フィーカはスウェーデン語であり、他言語に翻訳できない単語として知られている。言語というものは、その国の文化と深い根っこで繋がっているものであるから、これはフィーカがスウェーデン文化であることを物語っているだろう。つまり、翻訳不可能であるところにその国独自の文化が凝縮されていると考えるのである。

これは、日本語で言う「侘び寂び」や「木漏れ日」といった日本独自の感覚に極めて近い。デンマークの「ヒュゲ(hygge)」も同じく類する。

翻訳が不可能といっても、ここではフィーカについて説明する必要がある。しばしば「アフタヌーンティー」や「お茶」と同義の慣習として理解されることが多い。もちろんこれは解釈の問題であるが、筆者が翻訳するのであれば、「コーヒーとお菓子を囲って会話を楽しむ」こと、となる。人によって定義は曖昧であるが、スウェーデンが世界に誇るグローバル企業IKEAのHPではこう説明されている。

Called a ‘coffee and cake break’, fika is a short time-out to take mid-morning or afternoon on your own, with friends or workmates.

IKEA HPより

大まかなニュアンスはここでわかっていただけたかと思う。スウェーデンではこうして、1日に数回コーヒーとお菓子を片手に、1人リラックスしたり、友人や社内の仲間たちと会話を楽しんだりするのが日常なのである。ここではあえて「社内の仲間たち」と表現したのだが、基本的にフラットな職場環境であるスウェーデンにおいて上司や部下といった単語は不相応であるように思う。

年齢やバックグラウンドに関わらず、フラットな関係性で気さくに話たりその時間を楽しむのがフィーカの本質であると筆者は考える。

すでにお分かりいただけたかと思うが、このフィーカという時間がスウェーデンにおいて「ヨコな風土」を作り出すコミュニケーションツールとして機能しているのである。

 


コーヒーがスウェーデンで一般化するまで


 

今となっては生活の必需品といっても過言でないくらいに一般化したコーヒーであるが、どのような経緯で今に至ったのだろうか?

時は遡って、1670年代半ば。この時期にコーヒーがスウェーデンに伝来したようだ。大衆の間でその人気を博すまでに実に100年超を要した。1746年、当時の国王であったグスタフ3世はコーヒーに高い税率を課した。そしてその10年後にはコーヒーの流通の禁止をしている、が、実際には地方にて密かに楽しまれていたようだ。グスタフ3世はなぜコーヒーを禁止したのか?その答えは、皮肉にも現在のようなフィーカの形にある。

ロンドンなどではコーヒーハウスが大人の社交場として機能していた。同じようなことが起きているスウェーデンにおいて、グスタフ3世は自身の目の行き届かないところで人々が会話を楽しみ、ゆくゆくは王政に矛を突きつけらるのではないかと危惧したのであろう。

グスタフ3世はコーヒーを禁止するために、「コーヒーは健康被害をもたらす」という謳い文句を使った。当時、終身刑が言い渡されていた双子に対して、こんなことを提案している。

刑務所で最期を迎えることを免れることと引き換えに、コーヒーの健康被害の実験に被験者として参加するよう命じた。一方には毎日紅茶を飲むよう言い、もう一方は毎日コーヒーを飲むよう言い渡した。しかしながら、この実験の結果が出る前に、グスタフ3世は暗殺されてしまう。そして、これもまたアイロニーなのであるが、紅茶を飲み続けた方よりもコーヒーを飲み続けた方が長く生き永らえたのである。

これを受けて、規制緩和されて1820年に禁止が撤廃された。

※補足であるが、”fika”はもともとコーヒーの俗語である”kaffi”に由来し、その音節をひっくり返して”fika”が生まれた。

 

フィーカのお供「kanelbulle(シナモンロール)」写真は東京・豪徳寺に構えるFIKAFABRIKENより。

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